Case Study

ご先祖様から住み継いだ古民家を次の世代へ、歴史を紡ぐ古民家の再生事例

INTRODUCTION
群馬県の西部に位置し、面積の8割以上を山林が占める倉渕村。村の中央を流れる烏川の両岸には、古民家が建ち並ぶ集落が点在し、のどかな風景が広がっています。今回訪れたのはそんな集落の一角に佇む、築150年以上の古民家。代々住み継がれてきた古民家を、古いものを大切にするオーナーと古民家再生を得意とする工務店「木万里」が二人三脚で、あと100年住み継ぐことのできる家として再生しました。

もともと養蚕農家だった築150年以上の古民家を改修したオーナーのHさんご夫婦。古民家を改修して暮らすことになった経緯や、古民家改修の過程、古民家暮らしの魅力についてお伺いしました。

改修した古民家にお邪魔して玄関から居間に入ると、まず目に飛び込んでくるのが、吹き抜けにある古くて立派なクリの木の梁。黒く燻された色合いや釿(ちょうな)がけの跡が味を出しています。

昔は木材が貴重だったから、他の建物で使われていた材木をつかって家をつくったそうです。この家も一部に余所からもらってきた材木を使って建てたと聞いたので、梁などは150年よりもさらに古いものかもしれません。(Hさん)

そう話してくれたのは、この家で生まれ育ったHさん。中学生まではこの家で暮らしていましたが、高校進学を機に家を出て以来、長い間ほかの土地で暮らしてきました。生家である古民家を改修し、倉渕村へ戻ってきたのは2008年のこと。医療生協に勤め社宅に住んでいたので、家を持つことも、地元へ帰ってくることも考えてはいなかったそうですが、いくつかのきっかけが重なったことで、当時まだ健在でこの家にひとりで住んでいたHさんのお父様とともに、生家である古民家を改修し、その後移り住むことになりました。

あるとき、林業に携わっていた父から、そろそろ体力がなくなってきたので、所有する広大な山を案内するといわれて、一緒に山に行ったんですよ。そしたら、結構色々な木がたくさんある。それを見て、じゃあこの木を使って家を建てようかと考え始めたんです。
その頃、たまたま住宅関係のイベントで「木万里」さんと知り合い、それがきっかけで、あれよあれよとこの古民家を改修することになりました。
(Hさん)

一級建築士で工業高校の先生もしていた親類が、この家を訪れたときに、この古民家にはすごい価値があるから残した方がいい、と言ってくれたことも改修に踏み切った要因となりました。(奥様)

改修では、お父様自らが選んだ樹齢80年以上の杉や桧、クリの木を山から切り出してきて構造材や造作材として使用。自分で育てた山の木を使って自宅を改修する経験なんてなかなかできないことですし、お父様もとても喜んだそうです。

古民家を改修することになり、まず初めにやらなければならなかった作業は家財道具の片付けや整理。その時はまだ沼田にある社宅に住んでいたので、3、4カ月の間毎週末倉渕まで通ってススだらけになりながら片付けや整理を行いました。一般的には大変でやりたくない作業。ただ、お二人にとっては、家や家族の歴史を知るきっかけとなり、古民家改修や古民家での暮らしをつくっていくうえでの大切なプロセスとなったそうです。

父がまだ元気だったので、片づけていて出てきた昔の道具なんかについて、これは何だと尋ねると、それは養蚕の時に使っていた道具だとか、富山の薬屋が景品で持ってきたお猪口だとか、地場のクリの木と手しごとでつくられたお皿だとか、いろいろ教えてくれました。懐かしそうに話す父の姿に、こちらも嬉しくなり、また、直接色々な話を聞くことができてよかったなと思いました。(Hさん)

片付けで出てきた昔の道具たちは古民家の改修やその後の暮らしのなかで随所に活かされています。ともするとガラクタとして処分してしまいそうなものでも、その背景にある歴史や物語を知ることで見え方がかわり、大切な宝物のような存在になることも。また、古民家という時間を重ねた空間には、歴史を感じられる古道具や古材がインテリアとしてしっくりきます。
親が残した持ち物の整理は、親がいなくなってから必要に迫られてやるケースが多いと思いますが、Hさんの話を聞いて、親が元気なうちに家やモノ、それにまつわる家族の歴史を教えてもらいながら整理するといいのではないかと感じました。

さて、片付けが終わると、いよいよ本格的に改修の計画、そして工事がスタートします。
古民家の改修にあたり、木万里の大澤社長は、「あと100年住み続けられる家にする」という想いで、特に建物の丈夫さと居住性にこだわって計画をしました。

建物の内装や設備は後からでも容易に更新や改修ができるけど、構造や断熱といった部分は一度改修してしまうとなかなかやり替えがきかないでしょう。特に古民家はそういった部分に問題を抱えているケースが多いから、なおさらしっかりやらなければと考えています。(大澤社長)

また、それと同じくらい大切にしたのが、Hさんご夫婦の価値観を住まいに反映させることでした。奥様は、古民家改修の話が持ち上がる前から、住宅雑誌などを読んで、家を建てるならこうしたいというイメージを膨らませていたといいます。

木万里さんは100%こちらの要望を聞いてくれて、私たちのアイデアや想いを形にしてくれました。縁側のブラインドはこういう感じがいい、障子の組子はこういう感じがいい、キッチンはこういう感じがいい、といったイメージを社長や棟梁に伝えると、いいじゃないと言ってくれて、全て実現させてくれました。(奥様)

工事を進めるなかで思いつたアイデアも、その場で相談するとしっかりと答えてくれたそうです。

2階の納屋に置いてあった古い竹材をインテリアに使えないかと相談したところ、素敵に居間の入口に飾ってくれました。私が何も言わなくても一番いい竹を選んで使ってくれて、そういった部分に社長や職人さんの気配りや想いを感じられました。(奥様)

古民家を改修してみて、また暮らしてみて、ギャップや想像と違った部分はありますか、とHさんご夫婦に尋ねたところ、こちらのイメージ通りにつくってもらえたので、ギャップや不満はありません、と答えてくれました。大澤社長もご夫婦とのコミュニケーションをとても大切にしながら家づくりを進めたとのことで、そのことがしっかりと満足度に繋がっているのだなと感じました。

家のなかでお気に入りの場所をHさんご夫婦に尋ねると、次々と挙げてくれました。

夏場は寝室の漆喰壁に、庭の緑が映り込んで、その雰囲気が何ともいえない贅沢なんです。(奥様)

キッチンに立つと、頭の上にまっすぐと梁が通っているのが見えて、その先に西側の和室まで視線が抜けます。釿(ちょうな)で削られた梁の雰囲気も素晴らしいですし、和室にある小さな窓からは西日や樫の木が見えて、その風景に風情を感じますね。(奥様)

2階の東側にある小さい部屋は、窓が低くて落ち着いた雰囲気ですが、そこから外の風景がよく見えるし、夏場は東の風が入ってきて気持ちがいい。籠るには最高の空間です。(Hさん)

古民家改修や古民家暮らしに興味がある人、検討している人に対して、何かアドバイスや伝えたいことはありますか。

新築の家と比べると不便さや不自由さがあるかもしれませんが、それには代え難い居心地の良さや風情があります。また、時間が経つにつれて味わいがでる経年変化の魅力は、新築ではなかなか感じられません。
ただ、快適に暮らすためには、最低限、断熱はしっかりしておいたほうがいい。

家族や家の歴史を受け継ぎ、それを後世に繋いでいくことの大切さと価値を、身をもって知ることのできたいい経験になりました。新築の家だったら、子供や孫たちがしょっちゅう遊びに来てくれることもなかったのではと思います。

家は買うものではなく、つくるものだという感覚が古民家改修ではより感じられると思います。
(すべてHさん)

山に入って木の伐採から始まり、家の片付けを通して、ご先祖様や家の歴史を知ることができたHさんご夫婦。子供や孫たちが集う居心地のいい素敵な空間に生まれ変わった古民家のなかには、所々に歴史を語るきっかけとなるモノが存在しています。お孫さんが「おじいちゃん、これ何?」と聞くと、「それはね、おじいちゃんのおじいちゃんが・・・」とHさんが答える、そんな会話が想像できる、素敵な古民家活用の事例でした。
Hさんは、私たちの家づくりを通して、古民家活用ってこんな可能性があるのだなって知って欲しいです、と話していました。
Hさんご夫婦やその他の古民家改修事例について詳しく知りたい方は、株式会社木万里さんまで是非お問い合わせください。

(左から)Hさんご夫婦、木万里 大澤社長

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