前編では、田口さん夫妻がそれぞれ培ってきたものが結びついた土地・桐生への移住と、現在の店舗となる小さな築100年の古民家との出会い、リノベーションについてのストーリーを伺いました。
店舗づくりがいよいよ動き出し、住まいも急いで桐生へ移った田口さん一家。こちらも古民家にはこだわらず一軒家を探していましたがなかなかマッチするものが見つからず。引っ越すためにはとりあえず家を借りないと、と対照的に新築マンションでのスタートとなりました。
まず住んで、お店をやりながらいい家との出会いを期待しようと、さくげつがオープン。すると1か月でご縁が舞い込みます。お店の佇まいや二人の作り出す雰囲気に共鳴したのか、築100年の家が空いたと、お店のお得意さんになってくれた方から紹介されました。
家を探しているとも、古民家に住みたいとも、誰にもまったく言っていなかったんですけど、お客さまから『きっと好きだと思うから見においで』とご自宅の隣の家を紹介されて、家の持ち主さんにも引き合わせてくれたんです。しばらくするとその反対隣に住む、ふふふのご夫妻からも同じ家を紹介されて。両隣からお薦めされるなんて面白いなって。住まいも古民家っていうのもいいなと思いました。(侑希乃さん)
僕は、住まいは古いよりは新しくてきれいなほうがいいと思うタイプだったんですけどね(笑)。住めばナントカじゃないけど、居心地よく住んでいます。(康範さん)
住むにあたり、畳を新しくしたり襖を木の扉に変えたりと、ある程度予算をかけて改修したそうです。〈古民家に住む〉というのは、お店とはまた違ったよいところも大変なところもあると思いますが、どうでしょうか?
どこから入ってくるんだろう?という隙間風と土埃には最初驚きました。風の強い日の翌朝は、テーブルの上に土が積もっていたり(笑)。群馬の風の強さと寒さも想像以上でした!(康範さん)
雨戸とかの木の建具は開け閉めがスムーズにいかない時もあるので、何日も閉めたままにしちゃうこともあったりします(笑)。(侑希乃さん)
大変なところもあるけれど、それを補って余りあるよい部分もたくさん。昔のまま残っているガラス建具は特に大切にしていて、すりガラスが多く使われているので田口家では窓にはカーテンをつけず、自然光の入る暮らしを楽しんでいるそうです。寝室に射し込む朝日で目を覚まして布団の中から窓の外の景色を眺めたり、ダイニングでは時を経たガラスが庭の緑の色もやわらかく運んで食卓を照らしてくれたり。古民家がよぶ自然の光の風景が愛おしいそうです。
ご近所さんが優しいのもあるけれど、子どもたちが家の中でも活発にしていても親の私たちがピリピリしなくなったのがマンションの時との一番の違いですかね。庭で子どもが木登りをしたり、一緒に草むしりをしたり、暮らしの中で土に親しむことも増えました。(侑希乃さん)
なかなか庭に手をかけられていないんですけど、季節になると梅や枇杷の木が実をつけたり、色々な花が咲いたり。それを家の中から眺めるのが僕は好きですね。子どもたちにとっても、ものを大事にするとか丁寧に使う暮らしが身近にあることは、悪いことではないなと思います。(康範さん)
お二人の話から、建物と外と光の関係が、古民家ならではの空間の魅力だと感じました。店舗でのお気に入りの箇所や過ごすひとときはいかがでしょうか?
大きい開口で自然光を多く取り入れる一方で、照明は数も光量も控えめなんです。早く日の暮れる冬は、暗い中に店内がオレンジ色にポツンと照らされて、静かで落ち着いた感じでまたいいんですよね。あかんところは消えて、いいところだけ浮かび上がる(笑)。夜、店じまいをして、翌日のために整えられた店内を外から眺めるのも好きです。(康範さん)
経年変化した梁や柱の、古いからこそ生まれる木材の温かみは、自分たちのお店の雰囲気にはなくてはならないものですね。あと、お店の什器にはもともと生活の中で愛用していた古道具を持ってきて使っているものもあります。新品には無いデザインや味わい、長く使える頑丈さが気に入っていたもので、お店の雰囲気とも相性よくて色々とディスプレイしてみるのがすごく楽しかったんです。桐生に来るまでの自分たちの暮らしの積み重ねや空気感が、この場所にすんなり溶け込んだような気がして嬉しかったです。(侑希乃さん)
きっとご苦労もあったと思いますが、軽やかにご縁を呼び込み、思い描いた暮らしを実現してきた田口さんご夫妻に、古民家を活かした暮らしをしたい方へメッセージをいただきました。
こだわりを持ちすぎないことが私たちは功を奏しました。結果的に巡り会ったのが築100年の古民家だったけれど、どんな物件でも場所のもつ長所をさらに活かしていこうってポジティブな思いがあって、フィーリングが合えば良い場所づくりができると思います。(侑希乃さん)
現実的なことになっちゃいますが、夏は暑くて冬は寒い、光熱費もかかります(笑)。でも本当にありがたいご縁に恵まれてお店を構えることができました。本音を言えば色々な制約もあって100%思い通りではないけれど、リノベーション工事が終わったときがゴールじゃなくて。これからもちょっとずつ自分たちで良くしていける、前向きに工夫していける余地が色々あると思えることもいいことです。(康範さん)
田口さんご夫妻は桐生に来たことで、農家さんや個人店やものづくり関係など、「何かを生み出せる」人たちにお会いできる機会が増えて、すごく影響を受けていると言います。相談できる人たちがいるというのも心強いし、ちょっとしたことなら自分たちの手でやってみよう、直してみようと、東京にいた頃にはなかったマインドが育ってきたそうです。
農家さんから届いたお野菜を無駄なくおいしく味わってもらえるように、いつかお惣菜を出せる場所も作れたら、と次の目標も教えていただき、またお店に伺うのが楽しみになりました。
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